高血圧について

高血圧について

高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2019」は改訂され、「高血圧管理・治療ガイドライン2025」が作成されました。学術的・臨床的に意義深いガイドラインと言われています。わが国の高血圧者は4300万人とされ、良好にコントロールされているのは27%程度と言われています。改めて、家庭血圧の重要性を言われています。

高血圧の疫学

  1. 120/80mmHgを超えて、血圧が高くなるほど脳卒中、冠動脈疾患、慢性腎臓病、心不全、心房細動、認知症などの罹患リスクおよび死亡リスクは高くなる。

  2. わが国における高血圧に起因する脳心血管病死亡者数は年間約17万人と推定され、脳心血管病死亡の要因として最大である。

  3. 血圧指標のうちでは収縮期血圧が脳心血管病リスクをより強く予測し、他の危険因子の合併によりリスクはさらに高くなる。

  4. 肥満に伴う高血圧が増加している。わが国の食塩摂取量は依然として多い。

高血圧の診断

1)診察室血圧値による分類

高血圧の診断閾値は時代によって変遷し、国、機関によって異なることがある。
わが国の久山町研究では、血圧120/80mmHg未満で心血管病の累積死亡率が最も低くなり、140/90mmHg以上では、心血管病(脳卒中・心筋梗塞・慢性腎臓病など)の発症リスクおよび死亡リスクが高くなることが示されている。
また、端野・壮瞥町研究ならびにNIPPON DATA80においても同様に、血圧140/90mmHg以上で心血管病の発症リスクが高まる。
ガイドライン2025においても、高血圧の基準は従来どおり140/90mmHg以上とした。
高血圧未満でも120~129/80~84mmHg、130~139/85~89mmHgの順に心血管病の発症率が高まることが研究結果から示されている。高血圧には該当しなくとも120/80mmHg以上の血圧値を正常血圧と表記することは適当とは言い難い。このため正常血圧を診察室血圧120/80mmHg未満と定義した。

成人における血圧値の分類


分類

診察室血圧(mmHg)

家庭血圧(mmHg)

収縮期血圧   拡張期血圧 収縮期血圧   拡張期血圧
正常血圧 <120 かつ <80 <115 かつ <75
正常高値血圧 120~129 かつ <80 115~124 かつ  <75
高値血圧 130~139 かつ/または 80~89 125~134 かつ/または 75~84
Ⅰ度高血圧  140~159かつ/または 90~99 135~144 かつ/または 85~89
Ⅱ度高血圧 160~179 かつ/または 100~109 145~159 かつ/または 90~99
Ⅲ度高血圧 ≧180 かつ/または ≧100 ≧160 かつ/または ≧100
(独立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ <90 ≧135 かつ <85

※家庭血圧の値は診察室血圧値と同程度の脳心血管病発症リスクとなることが示された値であるが、5あるいは10の区切りで血圧値を分類していることから、実際の点推定値とは数mmHg程度の差がある。

2)診察室外血圧値による分類

  1. 家庭血圧値による分類
    家庭血圧値135/85mmHg以上を高血圧とした。

  2. 24時間自由行動下血圧値による分類
    24時間血圧平均値で130/80mmHg以上、昼間血圧平均値で135/85mmHg以上、夜間血圧平均値で120/70mmHg以上を、各血圧値における高血圧とした。

血圧変動性に基づく分類・診断

1)白衣高血圧

診察室で測定した血圧値が高血圧に該当しても、診察室外血圧では非高血圧を示す状態である。

2)仮面高血圧

診察室血圧が非高血圧であって、診察室外血圧では高血圧を示す状態である。
早朝高血圧・昼間高血圧・夜間高血圧に分かれる。

それぞれの危険因子

早朝高血圧
・アルコール
・寒冷
・血管スティフネスの増大

昼間高血圧
・精神的あるいは身体的ストレス
・身体活動度が高い

夜間高血圧
・心不全、慢性腎臓病
・睡眠時無呼吸症候群
・抑うつ状態

降圧目標

・診察室血圧<130/80mmHg

・家庭血圧<125/75mmHg

JSH2025では、原則的に130/80mmHg未満を診察室血圧の降圧目標とする。
ただし、めまい・ふらつき・立ちくらみ・倦怠感・失神などの症候性低血圧、起立性低血圧、急性腎障害、高カリウム血症などの電解質異常といった有害事象の発症に注意しながら降圧を進める。

収縮期血圧120mmHg未満に降圧された場合には、過降圧による有害事象出現の可能性に注意する。
高血圧患者で収縮期血圧120mmHg未満に降圧した場合、脳卒中等の増加が認められている。
過降圧は、到達血圧のレベルだけではなく、降圧の速度や幅が大きくなると起こりやすくなり、個人の病態によっても異なるので個別に判断する。

治療の基本

高血圧は遺伝的素因と環境因子が関係する。
環境因子に関係する生活習慣の改善が必要である。

1)生活習慣の改善

生活習慣の改善により高血圧の予防及び降圧が期待できる。
特に脂質異常症、糖尿病、メタボリックシンドローム、肥満症など生活習慣の改善が重要です。
生活習慣の改善による降圧効果を維持するには、医師と患者の双方が長期的に努力を継続することが必要である。

2)薬物治療

主な降圧薬は、Ca拮抗薬、RA系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)、サイアザイド系利尿薬(含サイアザイド類似薬)、β遮断薬に加えて、アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬等がある。
投与した降圧薬の降圧効果が小さい場合や副作用が問題の場合は、作用機序が異なる他の降圧薬に変更する。

3)高血圧による脳心血管発症のリスクと治療法について理解を得ていただく

生活習慣の改善

  • ナトリウム(Na)制限:食塩6g/日未満
  • Kを多く含む野菜・果物を多く摂る
  • 適正体重の維持:BMI(体重[Kg]/身長[㎡])25未満を維持
  • 運動療法:軽~中等度強度の有酸素運動を毎日30分以上実施
  • 節酒:エタノールとして男性20~30ml/日以下、女性10~20ml/日以下に制限
  • 禁煙
  • その他:室内、屋外の寒冷曝露の回避、適切な睡眠時間の確保、便秘の回避、ストレスの管理

これまで、食塩の過剰摂取が血圧上昇と関連することや、食塩制限(減塩)による降圧や脳心血管発症抑制効果について証明されている。食塩制限の目標値は欧米の大規模介入研究の結果を基に、6g/日未満とする。
なお、高齢者にも減塩は有効であるが、低栄養やフレイルに陥らないよう柔軟に指導する。
K摂取量の目標を達成するには、①野菜を1日350g、②果物を1日200g、③低脂肪乳、緑茶を組み合わせて摂取する。

DASH食や地中海食も勧められる。飽和脂肪酸を抑え、肉類よりも魚を主としている。
豆類を摂る。間食をナッツ類にするのが良い。

BMIが25以上を肥満とする。男性の30~69歳では30%以上が肥満者である。
肥満者は3%以上の減量で有意な降圧を認めるため、第1に包括的生活習慣の改善により減量を図る。

一方、食事療法による体重減少での降圧効果は一時的である。
肥満には内臓脂肪蓄積型と皮下脂肪蓄積型がある。内臓脂肪は動脈硬化の進展や血栓、寒冷症を来す。
肥満は糖、脂質、尿酸の代謝異常、脂肪肝、肝がん、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、整形外科疾患および高血圧と関連する。

運動の種類は、ウォーキング等の有酸素運動およびスクワット運動や腕立て伏せなどのレジスタンス運動、また、両者を組み合わせた複合運動を選択して行う。

脳出血は飲酒量が多いと増加するが、心筋梗塞・脳梗塞は適量飲んだ方がリスクが下がるという報告もある。
エタノール20~30mlは、日本酒1合、ビール中瓶1本、ワイン2杯位に相当する。

喫煙は高血圧、心血管病、脳卒中などと関連する。禁煙による脳心血管病発症の抑制も証明されている。

その他の生活習慣病

1)寒冷

冬季に血圧が上昇する。また血圧の変動も大きくなり、入浴時の死亡リスクが高くなる。
室内温度が低くなると、特に高齢者で入浴後の血圧上昇が大きい。脱衣所の気温調整が必要である。
また、特に高齢男性で入浴後の血圧と心拍数が関連して上昇することが知られている。

2)睡眠

日本人男性で7時間程度の睡眠に比べて、6時間未満や8時間以上の睡眠では、より高い高血圧発症率が観察されている。
成人に6時間以上の睡眠が推奨されている。
高齢者では健康リスクの観点から、床上時間が8時間以上にならないことも推奨されている。

3)便秘

便秘が心血管イベントと関連している。
いきむことで血圧上昇し、心血管イベントを起こすことがある。

4)ストレス

心理的、社会的ストレスによって高血圧発症リスクが2倍以上に高まる。